
世間の著作権への関心は年々高まっており、病院広報誌も著作権の侵害にならないよう十分な注意を払う必要があります。しかし、そのような認識はあっても実際の制作時には迷うことも多くあるかと思います。今回は実際に起こりうるケースから、注意すべき点を紹介します。
事例1:医師が寄稿したあいさつ文の中に、他者の著作物から引用した文章が使われている
著作権法では、以下の要件をすべて満たせば引用することができると明記されています。まずはこれらチェックしましょう。
・引用された著作物が公表されていること
・引用された部分が明確に区別されており、引用の出所が明示されていること
・当人の創作部分が「主」、引用された著作物が「従」となること
・引用することや引用している範囲・分量に正当性があること
・引用部分を改変していないこと
特に注意が必要なのは、文章のほとんどが他者の著作物からの引用になっている場合です。③の要件が満たされていないと判断されてしまうので、このような原稿が届いたときは、ご自身の言葉として書き直していただくか、医師の文章が「主」に、引用部分が「従」になるよう全体の文章バランスを調整したりするなど、原稿の修正をお願いしましょう。
事例2:院内で長く使われている料理レシピを広報誌に掲載したいが、誰が作成したか不明になっている
著作物は、著作権法で「思想または感情を創作的に表現したもの」と定義されています。料理レシピ自体はアイデアにすぎないため、著作物ではありませんので、著作権法の対象外になります。
注意が必要なのは料理レシピを記載した本やブログの記事をそのまま転載する場合です。文章になった段階で、レシピには著作権が発生する可能性があります。
また料理レシピと一緒に料理写真のデータが残されていた場合、明らかに院内の従業員(役員やパートも含む)が業務として指示されて撮影したのであれば、職務著作にあたるため、就業規則等に特段の定めがない限り問題ありません。しかし外注したカメラマンが撮影した写真である場合は、そのカメラマンが著作者となるため、無断で使用すると著作権の複製権侵害にあたります。
事例3:外部講師を招いて院内研修を行った。報告記事用に写真を撮影したが、講師の作成したスライド資料が写ってしまっている
この場合、スライドがどの程度写真に写り込んでいるかで対応が異なります。
「参加者の集合写真を撮影した際、スライドが背景として写ってしまった」「講師の話を聞いている参加者の様子を撮影した際、手元にあるスライドのコピー資料が入ってしまった」といった程度であれば、写り込んでいても写真の中の軽微な構成部分とみなされるので、著作権侵害の対象にはなりません。
写真の中でスライドの内容がわかるような場合は、スライドも著作物ですので、講師に掲載の許諾を取るようにしてください。
法的にあやふやな状態で制作を進めてしまい、配布・公表された結果、著作者から著作権の侵害を申し立てられてしまうと、広報誌はもちろん病院自体への信用問題にも発展します。著作権についての正しい理解は、これからの病院広報誌制作に必須といえます。気を付けるべきポイントを押さえておきましょう。