医療従事者にとっては知っていて当たり前でも、患者さんや地域の方にとってはそうではない場合があります。そのひとつが、病気名や医療用語ではないでしょうか。とくに病気名や医療用語などはいわゆる難読漢字を使っている場合も多く、医師や看護師などの医療従事者なら問題なく読める病名でも、一般の方には読めないことが多くあります。
例えば、以下の漢字はどう読むのでしょうか?
1. 蜂窩織炎
2. 疣贅性心内膜炎
3. 苔癬状粃糠疹
皆さんならご存じだと思いますが、答えの読みは以下に記します。※( )内は病気の説明文です。
1. ほうかしきえん(皮膚の傷などから細菌が侵入し、皮膚とその下にある脂肪組織などに炎症を引き起こす)
2. ゆうぜいせいしんないまくえん(心臓の中にある細菌のかたまりが心臓の壁に付いて感染を起こす)
3. たいせんじょうひこうしん(体幹や太もも、上腕などに赤くプツプツとしたほっしんがいくつもできること)
ここまで難しい病名を広報誌で紹介することはまれかもしれません。しかし、比較的広報誌でよく紹介される「大動脈弁狭窄症」や「未破裂脳動脈瘤」などの病気名でも、一般の方にとっては非常に難読であると認識いただいていいでしょう。
難読漢字をどう表記する?
では、そのような病気名について広報誌などで表記する場合、どうすればいいのでしょうか。
3つの方法をご紹介します。
1. 漢字にルビを振る
ルビとは、難読漢字や外来語、方言、古語などに使われる「ふりがな」のこと。縦書きのときは文字の右側に、横書きのときは文字の上側に記されます。余談ですが、この語源は、英語の「ruby(ルビー)」から来ていて、5号活字の振り仮名に用いた7号活字の大きさが、イギリスで「ruby」と呼ばれる欧文活字と同じ大きさだったことが由来だそうです。
2. 漢字の後ろに( )でふりがなを付ける
「大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)」や「未破裂脳動脈瘤(みはれつのうどうみゃくりゅう)」のように、
後ろにかっこ書きでふりがなを入れる方法です。これはルビが振れないWebのテキストや、ルビでは文字が小さすぎて読めない方への対応としてよく使われています。
3. 難読漢字をひらがなに置き換える
「大動脈弁きょうさく症」や「未はれつ脳動脈りゅう」などのように、難しい漢字をひらがなに置き換えて表記するやり方です。この病気の表記としては一般的ではないですが、ひらがなに置き換えることも病気によっては一般的になってきています。例えば
「骨粗鬆症」→「骨粗しょう症」
「誤嚥性肺炎」→「誤えん性肺炎」
「癲癇」→「てんかん」
などが挙げられます。
なぜ難読漢字が使われる?
そもそも、なぜ病気の名前が難しい漢字で表記されるのか? その理由としては、主に2つの理由があるようです。
1. 語源と歴史的背景
病名の多くは、語源や歴史的背景に基づいた漢字で表現されています。日本の医学には長い歴史があり、中国から伝わった漢字が取り入れられているケースも多いようです。
ちなみに「がん」は「できもの」を意味する言葉として、古くは「岩」もしくは「巌」と漢字表記されていたそうです。しかし、江戸時代から中国製の漢字である「癌」が使われるようになったとか。漢字に歴史ありですね。
2. 専門性と正確性
漢字は表意文字なので、それだけで具体的な意味を表すことができます。病態や症状を正確に伝えるために、漢字はふさわしい文字だといえますね。
しかし、漢字に苦手意識をもつ方も、患者さんの中にはたくさんいらっしゃることでしょう。
読者がスムーズに文章を理解できてはじめて、情報が正しく伝わるようになります。
病気名は漢字で書くべきという概念にとらわれず、難しい漢字にはよみがなを添えたり、ひらがなやカタカナに置き換えたりするなどの配慮を、病院広報誌でも取り入れてみてはいかがでしょうか。